
令和8年に「任意後見契約に関する法律」が改正され、令和10年までにその施行が予定されています。本記事は、本改正に基づく任意後見制度を紹介します。
任意後見制度は、下図の例に示すように後見を受けようとする本人(任意後見委任者)が、任意後見人となる者(任意後見受任者)との間で本人の判断能力の低下後の財産管理や身上監護等の事務を委任する契約を本人の判断能力の低下前に締結し、家庭裁判所による後見開始の審判後に任意後見人となった者が任意後見監督人の監督下(青色矢印)で契約内容を遂行することを特徴とします。
新制度では、明らかに必要がないときは、任意後見監督人を選任しないこともでき、その場合には任意後見人は家庭裁判所の監督を受けます(赤色矢印)。
任意後見制度の法定後見制度との相違点を下表に示します。
任意後見と法定後見の比較
| 項目 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|
| 契約の時期 | 委任者の判断能力低下よりも前 | 契約によらない |
| 後見人(補助人)の選任 | 任意後見契約の中で指定する |
家庭裁判所が決定 |
| 後見の開始手続 | 家庭裁判所への任意後見開始の審判申立て | 家庭裁判所への補助開始の審判申立て |
| 後見開始手続の時期 | 本人(委任者)の判断能力低下後 | 本人の判断能力低下後 |
| 後見人(補助人)の代理権 | 任意後見契約の中で定めた行為について代理権を有する | 特定の法律行為について代理権を有する |
| 後見人(補助人)の同意権 | なし | 特定の法律行為について同意権を有する |
| 後見人(補助人)の取消権 | なし |
(補助人の場合)あり* |
* 補助人は特定の法律行為についてのみ取消権を有する。
任意後見人は、被後見人がした法律行為(契約等)について取消権を有しません。しかしながら、任意後見人は、紛争処理の代理権が契約によって与えられている場合には、クーリングオフ制度の利用等によって契約を解除するように努めます。
任意後見契約には、認知症や精神障害などによって判断能力を低下させた場合に備え、本人の「生活、療養看護、及び財産管理」に関する事務の全部又は一部について任意後見人に代理権を付与すること、任意後見開始の審判がされた時から契約の効力が生ずること、ならびに任意後見開始の審判を請求することができる者を定める条項が必須です。したがって、任意後見契約書の作成にあたり、次の事項を検討する必要があります。
財産管理及び身上監護に関して何を任意後見人に代理してもらうか検討します。
保有している全ての財産を任意後見人に管理してもらうのか、あるいは一部なのか検討します。
任意後見開始の審判を請求できる者をリストアップします。
どれくらいの報酬を任意後見人に支払うことができるか検討します。
※委任者が任意後見人一人の判断ではなく任意後見人監督人と併せて二人の判断を必要とすると考える事柄については、個別に任意後見監督人の同意を要するという特約を契約の中に入れることもできます。
任意後見は、契約の締結から後見開始までの期間が長くなることもあるため、後見が開始する前に受任者が後見を行えないようになる可能性があります。
それにもかかわらず、一つの契約の中で複数の受任者を予定する制度とはなっていないため、このような場合には新たに任意後見契約を締結しなおさなければなりません。しかしながら、その時には委任者の精神状態が新たな契約を許さない状態になっている可能性もあります。
よって、新制度では、任意後見委任者が複数の任意後見受任者と契約を別々に結び、それぞれの契約について優先順位を付け、後順位の任意後見契約に「他の任意後見契約の受任者が死亡その他の事由によって欠けるに至るまでは、任意後見開始の審判をすることができない」という条項を入れることにより、任意後見委任者は実質的に複数の任意後見受任者を確保できるようになりました。
任意後見契約の必要書類を収集し、それと並行して任意後見契約書の原案を作成する。
任意後見契約の締結の前に、契約書の内容について公証人と打ち合わせを行う。
任意後見契約の委任者と受任者が公証役場で契約を締結し、公証人が任意後見契約の公正証書を作成する。
公証人が任意後見契約を登記する。
法務局において登記事項証明書の交付を申請し、これを取得する。
任意後見人となる者(任意後見受任者)は、委任者の親族であっても、弁護士、司法書士、行政書士、及び社会福祉士などの専門職であっても問題ありません。
ただし、未成年者や破産した人等は、委任者の親族であっても任意後見人にはなれません。
任意後見人に任意後見契約の中で定められた事務を行う責務があることは当然ですが、その他にも任意後見人には次のことを行う義務があります。
任意後見人は、契約の中で定められた事務に関する情報を提供して本人の意向を把握し、その事務を行うに当たってはその意向を尊重し、かつ、本人の心身の状態および生活の状況に配慮しなければなりません。
任意後見人は、任意後見監督人を介して家庭裁判所に又は直接的に家庭裁判所に報告を行う責務があります。
任意後見人は、被後見人の支払いを代行するために被後見人の財産(金銭)を一時的に預かる場合がありますが、当然に自己の財産と被後見人の財産を分別して管理する責務があります。特に親族が任意後見人になった場合、日常生活の支出であっても被後見人の分と後見人の分を厳密に分ける義務が任意後見人に求められています。
任意後見人は、被後見人の財産の中からその報酬と後見事務にかかった費用を得ることができます。任意後見人の報酬額は、任意後見契約の中で定められた額ですが、任意後見監督人の報酬額は、家庭裁判所が決定する額です。
任意後見委任者に後見が必要となったとき、下記の者は家庭裁判所に任意後見開始審判を請求します。ただし、本人が意思表示できない場合を除き、本人以外の者が「任意後見開始の審判」を請求するには本人の同意が必要です。
* 任意後見開始の審判を請求できる者として公正証書によって指定する必要があります。
任意後見監督人は、任意後見受任者又は任意後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹以外の者のなかから選任されます。
これまでの制度では契約の変更については明文化された規定はありませんでした。任意後見契約に関する法律の改正により、契約の改正も公正証書によってすることになりました。
任意後見開始が審判される前では、任意後見契約の委任者と受任者のどちらからでも、公証人の認証を受けた書面によって契約の全部または一部を解除することができます。
任意後見開始が審判された後では、本人または任意後見人は、正当な理由があり、且つ、家庭裁判所の許可を受けて契約の全部または一部を解除することができます。
任意後見契約を解除したときは、任意後見契約の解除の登記をします。
任意後見人が契約した事務を行わない等の理由がある場合では、本人、親族、任意後見監督人の請求により家庭裁判所は任意後見人を解任することができます。
これまでの制度では、任意後見の発効後に家庭裁判所が本人のために後見開始の審判等をすると、任意後見契約は終了していました。
新制度では、任意後見の発効後に家庭裁判所が本人のために補助開始の審判をしても、任意後見は終了しないことになりました。すなわち、任意後見を補助と併用することができるようになりました。
新しい補助制度および任意後見制度では、両制度の併用が可能であるため、任意後見契約で当初予期しなかった事態に対応するための代理権を補助人に付与し、その目的が達成されたところで補助を終了させることができます。よって、予期しなかった事態に柔軟に対応することが可能になります。
に任意後見契約に基づく業務が終了します。