生前整理のポイント

 「人は収集する生き物だ」という言う人もいるように、人は生活している間に色々なものを貯めこんでしまいます。貯めこんだものを整理しておけば、亡くなった後に遺族はスムーズに死後の手続きを済ますことができます。

生前整理の利点

  1. 遺品整理業者を雇わずに済む、又は雇っても出費を抑えることができる
  2. 時間をかけて少しずつ整理をすることができる
  3. 要らない物を処分することで居住スペースを広げることができる
  4. 要る物だけ残っているので施設等への引っ越しが楽である

どのように整理するか

  1. これまでに貯めこんだ物を日常的に使用する物と全く使用していない又は使用する機会が少ない物に分けます
  2. 全く使用していない又は使用する機会が少ない物を残す物、処分する物、及び後で決める物に分けます
  3. 処分することにした物を処分します
  4. しばらく時間がたった後で残すことにした物と後で決めることにした物を再び残す物、処分する物、及び後で決める物に分けます
  5. 処分することにした物を処分します

 定期的に①~⑤のサイクルを繰り返すことで本当に必要な物だけが残るようにします。

 

 一回の整理で残す物と処分する物に分ける必要はなく、所有物を定期的に分類して処分する作業を習慣化することが大事です。

物だけが生前整理の対象ではない

 生前に整理が必要なのは物だけではありません。次のものの整理も検討しましょう。これらの整理は、亡くなったときだけでなく、成年後見を受けるときにも大事です。

 

お金に関する整理
  • 銀行口座を日常生活資金用と緊急資金用の2口座にまとめる
  • 使用頻度が低いカードを解約する
  • 所有証券を移管して利用する証券会社を一社にまとめる
  • 株式等の配当金等の受け取り口座を証券口座から銀行口座に変更する
  • 利用頻度が低いサブスクを解約する
  • 通帳と印鑑の保管場所が相続人等にわかるようにする
  • 保険証書等の保管場所が相続人等にわかるようにする
  • 借金の存在を生前から相続人等に伝える

 成年後見人等は成年被後見人等のために証券の運用をすることはできず、証券口座は塩漬けになってしまいます。それ故、配当金等の受け取り口座を銀行口座に変更しておくと証券の運用益を受け取ることができます。

 

医療保険の見直し

 重い病気に備えて民間の医療保険に加入することはよくあることですが、預貯金の一部を医療の支払に充てても医療費控除で所得税を安くしたり、高額な医療費に対しては国の高額療養費制度を利用することもできます。年金受給年齢になり、子供も独立している方は医療保険を見直しされてみてはどうでしょうか。

 

 また、本人の葬式や相続に備えるために死亡保険を利用することが医療保険よりも大事になる年齢もやってきます。年齢に応じて保険の利用を見直すことが大事だと考えます。

 

年金に関する整理

 年金に関する次の制度について理解していると役に立ちます。年金制度についてはリンク先でも詳しく説明しています。

  • 「特別支給の老齢厚生年金」制度
  • 在職老齢年金の年金減額ルール
  • 厚生年金の加給年金
  • 老齢基礎年金の振替加算
  • 離婚後の厚生年金の分割
  • 遺族基礎年金
  • 寡婦年金
  • 死亡一時金
  • 遺族厚生年金
  • 中高齢寡婦加算

 

医療に関する整理

 複数のお薬手帳を使用している場合にはそれらのうちの一冊のみを使用するようにします。延命治療・終末期医療問題についてはどこまでの医療を受けるか、生前に意思を示します。尊厳死宣言を公正証書ですることもできます。

 

デジタル情報の整理
  • 利用しているオンラインサービスの名前、アカウント名、パスワード等が相続人等にわかるようにします
  • 利用しているネット銀行・ネット証券の会社名、アカウント名、パスワード等が相続人等にわかるようにします
  • 利用頻度が少ないSNSのアカウントを閉鎖します
  • 電子メールのアカウントを一アカウントにまとめます
  • 利用している電子メールアカウントのアカウント名とパスワード等が相続人等にわかるようにします
  • 本人が亡くなったときにスマートフォン・パソコンのパスワードが相続人等にわかるようにします

 相続人等は、被相続人のスマートフォンやパソコンを受け継いでもすぐに初期化・廃棄せずにサブスクリプションサービス等の利用料請求がないか確認し、解約等を行った後に初期化・廃棄します。MicrosoftやGoogleのアカウントは、一定の期間にわたって利用されていないと自動的に消去されるようになっています。消去される前に故人のデータを確認し、重要なデータ等をハードディスク等の媒体に移しておくとよいでしょう。

 

人間関係に関する整理
  • 本人の死後に死亡の事実を連絡してほしい人をピックアップします
  • 葬式に呼ぶ人をピックアップします
  • 年賀状終いを送り、惰性で年賀状を送っていた人との関係を終わらせます
  • 人生の最期までの残された時間に不要だと思う人との関係を終わらせます
  • 葬儀について計画を立てます
  • 納骨について計画を立てます

 田舎にある実家の墓を移すことを考えている方は、リンク先の記事をご覧ください。

エンディングノート

 上に挙げたことの中にはエンディングノートを記入することで整理されるものもあります。エンディングノートの記入で整理できなかったものについては別途整理を行います。ただし、エンディングノートは法的文書にはなりません。財産の分与については遺言書の中で指示する必要があります。それでも、エンディングノートの記入によって自分の財産の理解が容易になり、遺言書に添付する財産目録の作成も容易になります。

死亡後の手続きの紹介

 人が死んだ後の色々な手続きを死後事務といいます。死後事務の中には死亡届の提出をはじめとする役所に対する手続き、公共料金等の支払いと契約解除などの民間企業に対する手続き、並びに葬式及び納骨の執行が含まれます。

死後事務の例

役所への主な手続きの種類と期日

1.死亡を知った日から7日以内

  • 死亡届(死亡診断書と死亡届書を提出します)
  • 埋火葬許可証の取得(死亡届を提出すると発行されます)
  • 戸籍への死亡の事項の記載(死亡届を提出した市区町村の役所から本籍地の役所に依頼があります)

2.死亡を知った日から14日以内

  • 住民票の世帯主の変更届(死亡者が世帯主であり、その世帯に2名以上の世帯員がいる場合)
  • 在留カード又は特別永住者証明書の返却(ただし、「死亡日」から起算)

3.死亡日から15日以内

  • バイク及び自動車の廃車又は名義変更手続

4.死亡後速やかに

  • 介護保険被保険者証の返納
  • 運転免許証の返納
  • パスポートの返納又は失効手続
  • 未納保険料の処理

5.死亡を知った日の翌日から1か月以内

  • 未支給の失業給付の請求

6.死亡を知った日の翌日から3か月程度の相当な期間

  • 未納の税金又は過払いした税金の処理(未納又は過払いの通知日から起算)

7.死亡を知った日の翌日から4か月以内

  • 準確定申告

8.死亡を知った日の翌日から10か月以内

  • 相続税申告

9.死亡日等から2年以内

  • 高額療養費の申請(高額な医療費が発生した診療月の翌月から起算)
  • 葬祭費/埋葬料の申請(葬祭を行った翌日から起算)
  • 国民年金の死亡一時金の申請(死亡日の翌日から起算)
  • 過払保険料の処理(還付通知日から起算)

10.死亡日等から3年以内

  • 不動産の相続登記(相続財産の中に不動産があるとき場合、その取得を知った日から起算)

11.死亡日等から5年以内

  • 遺族基礎年金/遺族厚生年金の請求(死亡を知った日の翌日から起算)

12.随時

  • 印鑑登録証の返納
  • 健康保険証又は後期高齢者医療保険被保険者証の返納

13.諸手続きの終了後

  • マイナンバーカード・住民基本台帳カードの返納
  • 未支給年金の請求(被相続人が亡くなった月の年金が未支給の場合。被相続人がマイナンバーを日本年金機構に届け出ていた場合には手続き不要)
  • その他、住所地の地方公共団体から介護サービス等を受けていた場合にはそのサービスの解約手続等
民間企業等への主な手続き
  • 病院や介護施設等の費用清算
  • 電話及びインターネットなどの料金の清算、契約承継、名義変更、又は解約
  • NHK受信料の清算、及び名義変更又は解約
  • 水道、ガス、及び電気の料金の清算、及び契約の名義変更又は解約
  • サブスクリプション型サービスの清算と解約
  • 軽自動車の廃車又は名義変更手続
  • 保険会社への死亡保険や入院給付金の請求、及び契約の解約
  • 預貯金口座の名義変更や解約
  • クレジットカードの解約
  • 証券口座内の証券の移管や口座解約
住居等に関する手続き
  • 不動産の所有権の名義変更(「役所への主な手続き」で説明済み)
  • 未納固定資産税の処理
  • 未納地代の処理(借地権が登記されている場合には相続登記が必要)
  • 未納家賃の処理(賃貸住宅に入居の場合)
  • 遺品整理と賃貸借物件の解約及び明け渡し(賃貸住宅に入居の場合)
葬儀・祭祀に関する手続き
  • 埋火葬許可証の取得(「役所への主な手続き」で説明済み)
  • 葬儀社の手配と葬儀の執行
  • 墓地の管理者への連絡と納骨の執行
  • 墓地の管理料の支払い
その他の手続き
  • 遺されたペットの世話の手配
  • サブスクリプション型オンラインサービスの清算と解約
  • SNSアカウント等の閉鎖

 スマホの契約解除は一番最後
 スマートフォンは、サブスクリプション型オンラインサービスやネット証券やネットバンクなどの金融サービスなど、色々なサービスを享受するための手段となっています。故人のスマートフォンやパソコンの中にある個人情報を特にデジタル遺品と呼びます。被相続人が亡くなってすぐにスマートフォンの契約を解除してしまうとその人がどのようなサービスを受けていたかわからなくなったり、その人のアカウントや口座を見つけ出すために余計な労力を費やすことになったりします。「スマホの契約解除は一番最後」と心得てください。

終わりに

 人の死後にたくさんの手続き(死後事務)をしなくてはならないことがわかりました。被相続人になる者が生前整理をしておけば、相続人がしなくてはならない死後事務の数を減らすことができます。相続人になる者は、死後事務の期日をよく理解し、被相続人になる者の生前整理を手伝う等の事前準備をしておくことが大事です。